東海大学名誉教授の唐津一さんの著書に昭和49年に発行された「販売の科学」という名著があります。この本の原著とも言うべき同名の書が発行されたのは昭和34年だそうですから、50年以上経ちますが、今読んでも少しも色褪せておらず、経営において本質を見極めること、目的意識を持って行動することの大切さを痛感させられる本です。

この本の中に、次のような話が載っています。

南方の島に靴を売りに行った2人のセールスマンがいた。現地でいろいろ調べた結果、それぞれ次のような報告書を本社に送った。

一人は、「この島の住人は皆ハダシで、靴をはいている人は一人もいない。この島での靴の需要はゼロだ。見込み無し。」

もう一人のセールスマンは「この島の住人は、うまいことに皆ハダシで歩いている。靴をはく習慣さえ植えつければいくらでも売れる。最も有望な市場だ。」

二人とも同じ事実を見ているのに、なぜまったく逆の結論になってしまったのか? どちらの情報のほうが役に立つのか? といったような内容です。

このセールスマンはいったい何のために南の島まで調査に行ったのかということですね。

そうです、靴を売りに行ったのです。

「靴が売れるかどうか」ではなく、「どうやったら売れるか」という情報をつかみに行ったはずなのです。

ですから、もし仮にその島ではすでに靴が普及し、みんな靴を履いていたとしたら、靴をはく習慣を植えつける手間がはぶけますね。

この場合は、その島の住人には、どんな靴がよろこばれるのか、今履いている靴のどこに不満をもっているのか、などの情報を集め報告するべきということになります。

前者のセールスマンの報告書も事実に基づいており、「見込み無し」の結論にも論理的に矛盾はありませんが(ここが恐いところですね。一見もっともらしい)、「靴を売るための調査」という観点から言えば、役に立たない情報ということになります。

その情報が役に立つかどうかは、それが単なる事実の記載にすぎないのか、それとも目的意識をもって収集した情報なのかの違いではないでしょうか。

その情報収集が目的を実現するための手がかりをつかむという観点からなされたかどうかということですね。

当社も、会計という情報を扱っています。お客様から日々の経営活動を裏付ける情報を収集し、目的に応じて適切な情報に加工して提供します。日々の経営活動という事実は1つなのですが、その目的によって収集する情報の中身が違ってきます。

経営者が利益の動向をしっかり把握する目的で決算書を見るのであれば、適切な正しい判断が出来るように、情報の収集にも工夫が必要です。

我々が提供する会計情報の価値は、その情報を提供したことによって、受け手(経営者)の情報量が、提供前に比べてどれだけ増えたか、つまり、どれだけ新しい発想や気づきが得られたかで決まるのではないかと思っています。

さらに言えば、その情報をいつ渡すか、誰に渡すか、受け手はそれをどのように使うのかによっても、その価値が著しく違ってくるのではないでしょうか。

これからも、常に目的意識を持った情報の収集と、より価値ある情報の提供を心掛けていきたいと思います。